(資料紹介)

磐城炭砿・入山採炭の合併に関して

  ・・・東京経済大学所蔵「大倉財閥資料」より・・・

 

 縁あって上記資料を閲覧していたところ、磐城・入山合併による常磐炭砿叶ン立の過程に関する文書が眼に触れた。

 今後皆様が研究を進められるに際して この「大倉財閥資料」がどのようなものかをご判断戴くサンプルになればと思い、紹介させて戴きたい。

 

一、「いわき市史別巻・常磐炭田史」の記述

 第8章・第2節に、「三 磐城・入山両炭鉱の合併―常磐炭砿株式会社の設立」という項目がある。

 この記述の 日時を追って 抜き出すと こうなる。

1、昭和184月 「政府・・・『炭鉱整理実施要綱』を発表」

2、昭和18820日 「両社には燃料局長官と石炭統制会会長から 事前の示達」 

3、昭和18年9月 「『炭鉱統合実施要綱』が明らかにされ」

4、昭和189月 「商工省は・・・両社統合の方針を公表」

 

二、「大倉財閥資料」より

A:I(入山採炭) 9 入山書類第一号〔大崎新吉所持資料〕

B:I(入山採炭)10 入山採炭と磐城炭鉱との合併関係、他

C:J(常磐炭砿) 2 入山資料第二号

の 3冊に 次の3件の文書があった。

 

1、湯本、内郷、好間区域ニ於ケル炭砿ノ実状

―三社統合ニ関スル今後ノ操業方針ニ就テ

                   入山炭砿

昭和十六年九月二十日

 

一、         全従業員ニ合同ノ趣旨ヲ徹底セシメ増産戦闘精神ノ作興ヲ期スベキ事

二、         統率ノ機構ト人選ニ慎重ヲ期スベキ事

三、         現有坑外諸設備、現有斜竪坑、断層其他地質的ニヨル石炭賦存状況、坑内浸透水及ビ湧水ノ系統、現存阻水炭壁ノ状況等ヲ考慮シテ大極的採炭区域ノ設定

四、         急遽増産可能ナルベキ操業方法ヘノ転換

五、         比較的容易ナル深部地山採掘ヘノ発展計画ノ実施

六、         雨、河水ノ坑内浸透防止ノ徹底的対策即時実行

七、         既設排水設備ト涌浸透水個所、仝量、電力設備等ヨリ観タル合理的排水方針ノ*立

八、         電源ノ容量、受送電ノ容量、サイクル問題ヨリ観タル電力確保、配電ノ合理化

九、         労務管理ノ一元化ニヨリ労務資源ノ確保ト其配属ノ合理化

十、         物資納入、配給、利用、回収、機構ノ設置

十一、  炭砿用諸機械器具ノ自家製作修繕機構ノ*立

十二、其他一般事務経理統制関係ノ諸事項

大項ハ上述ノ如シ内第一、第二項ニ就キテハ茲に改メテ縷々説明ノ必要ナカルベシ

第三項以降ノ各項ニ於テモ勿来方面ニ関シテハ事情明確ヲ期シ難ケレバ之レニ触レズ専ラ湯本、内郷、好間地域ニ就テ考察スベシ

   (以下考察 約14頁 中略)

第十項以降ノ件ニツキテハ事業経営ノ大本ガ*立セラルレバ自ラ決定セラル可キ問題ナレバ之ヲ省略ス

以上縷々説明セル処急ニ応ジテ正確ナル踏査モセズ只永年ノ見聞ヲ縦トシ自ラ脳裏ニ去来スル当炭田ノ状勢ヲ回想シ多少調査セル数字ヲ基礎トシテ大胆ニモ立案セル極メテ雑駁ナル私案ニシテ顕官ノ一笑ニ合フヤモ知レズ

然レドモ熟々当炭田ノ各社ヲ想フトキ一トシテ「水」ニ対スル恐怖ト苦労ヲ払ハザルトコロ無ク而カモ日月ニ累積ハ益々重圧ヲ加フルノミ一砿ノ水禍ハ他砿ノ驚威トナリ他砿排水ノ辛苦ハ或砿ノ労セザル乾水トナリ私ニ北臾笑ム皮肉スラ生ズル事尠カラズ而カモ排水セズシテ出炭ヲ望ミ得ザルトセバ排水ニ対スル根本的対策コソ常磐ヲ救フ唯一無二ノ良策ト断言セザルヲ得ズ誰ガ持主トモ決メラレヌ地下水ノ恐怖ハ皆デ分ケ合フ以外ニ方法モナカルベク先ツ以ツテ新体制モ排水カラト実現ヲ翼フ所以ナリ

    (以下追記 約1頁 略)

最後ニ運営上ノ機構ノ件ナルモ之ハ人事ニ関係スル問題トモナレバ後日後述スル機会モアラント省略ス

以上

 

2、(写)

総第一三三号

昭和十七年三月十四日

                      石炭統制会

                          会長 松本健次郎

  入山採炭株式会社

   会長 大崎新吉殿

        極秘親展

      鉱区整理統合ニ関スル件

 謹啓

 企業ノ整理統合ヲ速行シ産業ノ基礎ヲ確立スル必要ハ申上グル迄モナキ儀ニ有之、石炭統制会設立目的ノ一半モ亦茲ニ存スル次第ニ御座候処(中略)

其ノ第一着手トシテ下記条項ニツキ先ツ各会員ノ腹蔵ナキ御意見ヲ拝承シ(中略)

御意見ノ概要ヲ来ル四月末日迄ニ御提出願上(中略)

                        敬具

     御提出願ヒ度キ要点

(一)(中略)隣接鉱区ノ併合ヲ是トスル場合アラバ(中略)

(二)(中略)隣接鉱業権者ニ分割スルヲ是トスル場合アラバ(中略)

(三)昭和十三年以降貴社ガ隣接鉱業権者トノ間ニ鉱区ノ譲渡、譲受又ハ交換ヲ行ハレタル実例アラバ(中略)

 追而御提出書類ハ小生宛親展ニテ御送付相煩度厳秘取扱可致候

                       以上      

3、(写)

昭和十七年五月   日

                    入山採炭株式会社

                      取締役会長  大崎新吉

  石炭統制会

   会長 松本健次郎殿

       鉱区整理統合ニ関スル答申

(中略)

         答申

(一)(中略)隣接鉱区ノ併合ヲ是トスル場合アラバ(中略)

   本件ニ付キ当社ハ

(A)     入山第五坑及第六坑ノ隣接磐城炭砿所有鉱区ノ併合ノ必要ヲ認ム

(B)     入山川平坑の隣接各鉱区(八鉱区)の併合ノ必要ヲ認ム  (中略)

(二)(中略)隣接鉱業権者ニ分割スルヲ是トスル場合アラバ(中略)

    該当事項ナシ  

(三)昭和十三年以降貴社ガ隣接鉱業権者トノ間ニ鉱区ノ譲渡、譲受又ハ交換ヲ行ハレタル実例アラバ(中略)

    該当事項ナシ

以上

4、(控)

昭和十八年九月七日

                          会長 大崎 新吉(印)

   渡辺専務殿

   畠山取締役殿

   (取締役5名、監査役2名、相談役1名 氏名略)

   拝啓 (挨拶 略)

     入山、磐城両社ヲ統合シ新会社設立ノ件

商工省燃料局ニ於テハ一昨年来常磐炭田ノ開発増産ヲ企図シ同地方ノ業者ヨリ之ガ方途ニ付キ答申ヲ求メ、超エテ昨年ニ至リ石炭統制会ガ隣接鉱区ノ併合ニ依ル増産実現ノ具体的方策ニ付キ会員炭砿業者ヨリ答申ヲ求メ来ルモ (中略)之ニ対シテ当社ハ磐城炭砿ノ鉱区ノ一部併合ニ依ル増産ヲ答申致候然ル処現下苛烈ナル戦局ノ進捗ニ伴フ石炭需給ノ緊張ニ対処スル為メ、石炭統制会ヲシテ急速ニ具体的増産計画ノ立案ヲ急ガセ居ラレ候処之ガ根本対策トシテ石炭鉱業整備要綱ニ依リ両者ヲ統合シ出炭計画ノ合理化、防水炭壁ノ整理排水計画ノ拡充強化ヲ遂行セシムル事ニ決定シ去ル八月二十日燃料局長官及び石炭統制会々長ヨリ両者ノ代表者ニ対シ右趣旨ヲ伝達スルト共ニ左ノ統合実施要綱案ヲ提示セラレ候即チ

一、         石炭鉱業統制要綱ニ依リ入山採炭株式会社(甲)ト磐城炭砿株式会社(乙)トヲ統合シ常磐炭砿株式会社(丙仮称)ヲ設立(新設合併)セシムルコト

二、         甲及乙ノ炭砿ノ評価ハ鉱業評価委員会ニ於テ之ヲ決定スルコト

三、         丙ノ資本金額、払込金額並ニ甲及乙ノ株主ニ対スル株式ノ割当ニ関スル事項ハ石炭統制会ニ於テ之ヲ決定スルコト

四、         丙ノ首脳部人事ハ石炭統制会長ノ推薦ニ依リ之ヲ決定スルコト

五、         甲及乙ハ石炭統制会指示ノ下ニ統合後ノ合理的出炭計画ヲ速カニ協議決定シ統合前ト雖モ之ガ実施遂行ニ当ルコト

当社ハ夙ニ鉱区ノ狭隘ニ鑑ミ之ガ打開策ニ腐心在罷事ハ御承知ノ通リ有之候処今回ノ統合実施要綱案は

ハ国策ニ準拠セル公正妥当ナルモノト認メラル〃ヲ以テ仝月二十三日燃料局長官ニ対シ賛意ヲ表シタル次第ニ御座候

右ニ基キ政府ハ九月一日夕刻正式ニ之ガ発表(中略)

先ハ不取敢御報告迄如斯御座候                     敬具  

 

三、若干の検討 

(一)     合併への日程について

「常磐炭田史(以下 常)」の記事と「大倉財閥資料(以下 大)」

の文書を 日付順に並べてみる。

a、(大)昭和16年9月20日

湯本、内郷、好間区域ニ於ケル炭砿ノ実状

―三社統合ニ関スル今後ノ操業方針ニ就テ 入山炭砿

b、(大)昭和17年3月14日

                石炭統制会 会長 松本健次郎

  入山採炭株式会社 会長 大崎新吉殿

   極秘親展 鉱区整理統合ニ関スル件

c、(大)昭和17年5月  日

           入山採炭株式会社 取締役会長 大崎新吉

  石炭統制会 会長 松本健次郎殿

   鉱区整理統合ニ関スル答申

d、(常)昭和184月 「政府・・・『炭鉱整理実施要綱』を発表」

e、(常)昭和18820日 「両社には燃料局長官と石炭統制会会長から 事前の示達」 

f、(常)昭和18年9月 「『炭鉱統合実施要綱』が明らかにされ」

g、(常)昭和189月 「商工省は・・・両社統合の方針を公表」

h、(大)昭和十八年九月七日

                       会長 大崎 新吉(印)

   渡辺専務殿・畠山取締役殿

(取締役5名、監査役2名、相談役1名 氏名略)

    入山、磐城両社ヲ統合シ新会社設立ノ件

 

当然と言えばそれまでだが 文書の範囲だけでも 一年前から 当局(統制会)と企業の間で協議がなされていた(bc)ことが分かる。

 更に 起草者の立場が分から無いのが残念だが 入山採炭においては その更に一年前に・・・或は単なる偶然かも知れないが・・・合併についての検討がされている(a)ことが分かる。

 

(二)     鉱区調整と企業合併について

 合併決定を役員に伝える入山採炭会長の文書(h)は「当社ハ夙ニ鉱区ノ狭隘ニ鑑ミ之ガ打開策ニ腐心在罷事ハ御承知ノ通リ有之候処」と極めて率直に鉱区問題の解決を喜んでいる。

 又 事前協議(bc)も 課題を鉱区問題に限っている。

 そして文書(h)は「当社ハ磐城炭砿ノ鉱区ノ一部併合ニ依ル増産ヲ答申致候 然ル処(中略)具体的増産計画ノ(中略)根本対策トシテ(中略)両者ヲ統合」することになったと述べている。

 しかし 文書(a)のような かなり詳細な企業合併の検討がなされていたとすると 鉱区調整が企業合併に進んだとしても 入山採炭としては 必ずしも意外ではなかったと想像される。

 

四、(あとがき)磐城炭砿側の史料が発見出来ないことについて

 今回 閲覧出来ましたのは 合併当事者のうち 入山採炭側の資料である。

 磐城炭砿の資料については、浅野五郎氏をお訪ねしたが 現在のところ 当時の書類の所在は 確認できていない。

 従って 磐城炭砿側が どのような姿勢で 合併問題に対応したかは 判断できない。

(大倉・浅野両財閥の事業構成の中での石炭鉱業の位置づけに違いがあり、浅野財閥は 石炭鉱業経営についての熱意に 大倉財閥とは温度差があったのではないかということを 筆者は 常磐炭砿の先輩から聞いたことがある。しかし これを裏付ける資料を見たことはない。)

 

五、(付記)

 その後 大倉財閥資料の中に 次のような印刷物がファイルされているのを発見した。

 この合併についての 第三者の見方の一例として 参考までに 紹介する。

1、「同盟通信(重工業版) 昭和二十年二月五日 第三三二三号」

  減産顕著な常磐炭砿 当局の強硬対策を要望

 磐城、入山両炭砿の合同による常磐炭砿会社の成立は、多年の懸案を解決し飛躍的増産達成を期待されたが、新発足以来すでに一ヶ年を経過する最近の出炭成績は減産の一路を辿り、合同以前における入山炭砿一社の出炭と殆ど変りない激減を示してゐる

 両社の合同事情は現場が接近し狭隘なる炭田に優秀なる設備をもって出炭競争に終始したが、豊富なる資力と卓越せる技術者を多数擁する入山はすでに老境に入り増産対策の余地を残さず、その現勢送炭維持にさへ困難であったのに対し、磐城炭砿は数度の大災害による内容の悪化と現場首脳者の頻繁なる更迭並びに資金筋からの圧迫などによって、尨大なる未開発砿区を所有しながら積極的増産対策の樹立に難点を有してゐたもので、この両社の長短を合同により克服し現有設備を高度に利用して大増産を完成せしめることにあった、しかるに合同投書の期待は完全に裏切られ、今冬京浜市場における焚料炭逼迫の最大原因をなす減産を示してゐる、しかしてこの大減産の原因について種々討議されてゐるが、両社対等合同による新会社の設立と資本と経営を切り離した官選経営陣による事勿れ主義、増産意欲の欠如等が影響してゐるのではないかと見られてゐる (以下略)

2、「同盟通信(重工業版) 昭和二十年二月十五日 第三三三三号」

[箭火]

常磐炭砿現場の無気力消極さが出炭激減となって増産期待を裏切ってゐるが、その原因は対等合併による入山、磐城両社幹部のドン栗の丈競べ式対立にある・・・(中略)・・・株式その他に対する形式的表面の取扱ひは対等合併であったが、その内容においては入山への磐城の吸収合併的色彩濃く、統制会及び燃料局においても多分にその傾向が含まれてゐたのである、磐城を合併させてくれれば入山のみにおいて旧磐城入山両社の出炭を行ふ、旧磐城の設備とその推進によって来る増産を合すれば倍額増産は現在の設備と陣容をもってたちどころに実現してみせると当局を動かしたのは一体誰だったのか(以下略)

(原資料で使用されていない略字を使用している部分がある)

2003,11,19 鞍田 東